波佐見焼
暮らしの中で育まれた
うつわの美
波佐見焼は、400年以上にわたり、人々の日々の暮らしとともに歩んできました。
特別な日のためではなく、毎日の食卓で使われる器として。使いやすさを考え、時代の暮らしに合わせながら、ものづくりを続けてきたことが波佐見焼の大きな特徴です。
受け継がれてきた技に、その時代の感性を重ねる。そうして生まれる器は、今も私たちの暮らしの中で使われ、新しい日常の風景をつくり続けています。


波佐見焼の歴史は、約400年前、現在の長崎県波佐見町にあたる地域で始まりました。
磁器がまだ贈答品や特別な器だった江戸時代、波佐見が目を向けたのは庶民の暮らしでした。丈夫で使いやすく、手頃な価格で広く親しまれた「くらわんか碗」は、それまで高級品だった磁器を人々の日常に届け、日本の食文化を支える存在となっていきます。
波佐見の器は、海を越えても使われてきました。酒や醤油を詰めて長崎・出島から海外へ運ばれた「コンプラ瓶」は、ヨーロッパをはじめ各地へ渡り、波佐見と世界をつないでいきました。
白磁の美しさと藍色の染付。そして、暮らしの変化に合わせて、器そのものを変えていく柔軟なものづくり。
「日々の暮らしのための器」という精神は、400年を経た今も、波佐見のものづくりに受け継がれています。
1978年、長崎県波佐見町。丹心窯はここで生まれました。
白磁の中に、無色透明の光を宿す——丹心窯を語る上で欠かせないのが、独自の技法「水晶彫」です。
その原点にあるのは、初代・長﨑譲の挑戦でした。当時、白く濁ったものが主流だった蛍焼。そこに新たな可能性を見出し、試行錯誤を重ねた末、水晶のように澄んだ透明感を生み出す製法にたどり着きます。名付けて「水晶彫」。
白磁の生地に、職人が一つひとつ手で穴を彫る。一度焼き上げた後、その穴に初代から受け継がれる独自配合の素材を手作業で詰め、再び窯へくぐらせる。透明な部分を生み出すこの配合は、今なお2代目・長﨑忠義さんただ一人が受け継ぐ、丹心窯の核心です。
穴を彫るのは、生地がまだ手の跡を残すほど柔らかな段階。乾けばひびが入り、柔らかすぎれば形が崩れる——その日の気温や湿度を肌で感じながら、夏には濡れた布をかけて乾燥を防ぎ、繊細な均衡を保ち続けます。
下書きは、ありません。器全体の形と模様を見渡しながら、職人の手と目だけを頼りに、穴は一つずつ彫られていきます。
効率とは対極にある製法。それでも丹心窯がこの工程を守り続けるのは、簡単には真似のできない技術そのものが、丹心窯というブランドの個性だからです。


丹心窯を率いるのは、2代目・長﨑忠義さん。
有田で生まれ育ち、家業の商社でホテルや旅館、料理店に器を提案してきた長﨑さんは、結婚を機に丹心窯へ。2003年に工房へ入り、初代や職人たちのもとで、焼き物づくりを一から学んでいきました。
水晶彫の製法は、初代から受け継いだそのまま変えない。一方で、長﨑さんの代で大きく広がったのが、器の「形」です。
暮らしや食卓の変化に寄り添いながら、ワイングラス、カクテルグラス、ティーポット、スクエアの器——従来の和食器の枠を越えた水晶彫を、次々と生み出してきました。
その根底にあるのは、商社時代に料理人たちから学んだ「器は料理の脇役」という哲学。料理の邪魔をしない。薄く、軽く、それでいて日常の中で使い続けられる強さを持つ。そして食卓に置かれた瞬間、その時間をほんの少し特別なものに変える。
水晶彫は、注がれるものによって表情を変えます。緑茶ならやわらかな緑。ワインなら深い赤。ビールなら黄金色。透明な部分が飲み物の色を受け止め、白磁そのものがまったく違う顔を見せる。
初代から続く青海波の文様には、もう一つの手仕事が息づいています。染付を一つひとつ描くのは、初代の娘であり、長﨑さんの妻。幸せの波が絶えず押し寄せることを願う、古典文様です。
伝統をそのまま残すのではなく、守るべき技術を守りながら、今の暮らしに合う形へ——初代が生み出した透明な光は、2代目の手によって、新しい食卓へと広がり続けています。
丹心窯コレクション
長崎県波佐見町。400年以上にわたり、人々の暮らしのための器をつくり続けてきたこの町で、永泉は1935年、酒器づくりから歩みを始めました。
永泉はその時代に生きる人たちに寄り添いながら、酒器から一般食器へと、つくるものを広げてきました。
手描き、一珍、銅板転写、ホタルなど、波佐見で培われてきた多彩な技を活かしながら、伝統的な意匠だけでなく、今の暮らしに合う色や形、新しいものづくりにも挑戦しています。
永泉が大切にしているのは、「手軽で良質な器」。
毎日の食卓で自然と手に取りたくなること。料理がおいしく見えること。そして、使う人の暮らしを少し心地よくすること。
特別な日のためだけではなく、毎日の暮らしの中で使われ、長く愛される器。
時代とともに暮らしが変わっても、人の生活に寄り添うという永泉のものづくりは変わりません。


永泉のものづくりには、もう一つの特徴があります。それは、暮らしの中にある小さな不便や気づきを、器の形に変えてきたことです。
40年以上にわたり愛されてきた、液だれしにくい醤油さし。
料理中のお玉を置き、そのまま味見もできる「まんてん皿」。
トーストや揚げ物の余分な蒸気や油を逃がすパン皿。
そして、陶磁器の技術を食卓の外へ広げたスイッチプレート。
「こんなものがあったら、もう少し使いやすい。」
そんな日常の小さな気づきから、永泉の新しいものづくりは始まります。
その発想は、形をつくるだけでは終わりません。
実際に使う人の声を聞きながら、使いやすい大きさや重さ、料理との組み合わせまで考えていく。海外のお客様から「お玉が大きくて、まんてん皿に合わない」と言われれば、そこにも次の商品づくりのヒントがあります。
器そのものを主役にするのではなく、料理を引き立て、食卓を楽しくすること。
伝統を守りながら、暮らしを観察し、新しい使い方を考える。
永泉がつくり続けているのは、飾るための器ではなく、使うことで価値が生まれる器です。

















